またフラメンコの巨匠が一人、この世を去ってしまいました。
私が慕っていた方でマエストラしてだけでなく、私にとってとても身近な特別な存在でした。
私たちの愛する、トリアナ生まれのフラメンコの踊り手、 アンヘリータ・バルガス 。
先週の土曜日朝、脳卒中・脳内出血が原因で亡くなってしまいました。
マエストラとしてのアンヘリータからフラメンコのエッセンスを学ぼうと開催したマスタークラス「ラ・エッセンシア」も3度だけとなってしまいました。
13年前に左脳側の脳卒中・脳内出血が原因で右側の身体が麻痺し、指先や足が自由に動かなくなりもう踊れなくなってしまいました。
亡くなる前日、エル・コルテ・イングレスのあるプラザの前を車で通った時。
「ここには昔よくきたのよ。でももう何年もきてないわ…。」と アンヘリータ 。
「クリスマスのライトついたら一緒に観に来よう、ティタ!どう?」と私がきくと、
「もちろん、もちろん…」と答えていた彼女でした。
CONTENTS | もくじ
まさしくフラメンコ
私が初めてスペインを訪れたのは2001年。
そして17年前の2006年からは、セビージャに毎年通うようになりました。
目的は アンヘリータ・バルガス にフラメンコを習うため。
彼女のアルテを愛していた私は、納得いくまで滞在先をセビージャにしようと決めたのです。
彼女の踊りは、なんて自然でなんてシンプル。
それなのに手の届かないところにいる感じ。
奥が深すぎるけど、どうしてもそばで学びたいと思いました。
私がフラメンコを始めたのはアメリカ。
ある時、アンヘリータとティト・フアン・デル・ガストールの合同クルシージョをアトランタで主催しました。
うちに泊まってもらい、素晴らしく濃い時間を一緒に過ごしました。
ティト・フアンの奥様ルーシーも「今までみた中で一番素晴らしいクルソだった」と言っていました。
セビージャに毎年通い始めてからは、アンヘリータが日本に行っていたことが何度かありました。
スペインばかり来ていたので日本にはほとんど帰国していなかった私でしたが、アンヘリータを探しに本気に日本に行こうと思ったこともありました。
長い道のり
13年前の6月下旬のある朝。
アンヘリータのグループクラスをとっていた人たちから電話が。
「アンヘリータどこにいるか知ってる?」
彼女らしくなく連絡ないままクラスに来なくて、みんな心配していたのです。
いつもは時間を守り、とても熱心な先生でした。
私はその2日前に最後となってしまった個人クラスをとっていました。
私の誕生日であったのでよく覚えています。
この最初の脳卒中・脳内出血でアンヘリータは倒れ、命は取り留めましたが右半身が麻痺して踊れなくなってしまったのです。
その時、グループクラスの生徒さん数人、そして親戚や友達たちとリハビリ援助会を結成。
プリバーダ(個人経営)の治療やリハビリを探し、援助金を集める活動も始めました。
Peña Torres Macarena での Homenaje (オメナヘ)アメリカから行けなかったけどフライヤーは作りました🥲
私たちは計7〜8人で活動してましたが、日本からの援助金もすごく集まったと聞いています。
私はアメリカで募金活動やチャリティーイベントを企画して援助金集めをしました。
その時に時間や才能を捧げて助けてくれた方々、手伝ってくれた私の家族、友達や私の生徒さんたちへは今でも感謝しています。
アメリカでのチャリティーイベント。
それからはセビージャに行くたび、3ヶ月の滞在の間はアンヘリータのお家に時々会いに行ってました。
10年前にセビージャに引っ越してからも、気ままにお邪魔するという感じでいってました。
前はお友達たちに車で連れて行ってもらっていましたが、メトロでも行くようになりました。
コロナ時期。
ロックダウン2日前に彼女の名前の入ったプレートが設置されたことをお祝いするはずだったのにキャンセルとなり…
それからは何ヶ月も行くのを躊躇したり、アンヘリータがコロナになったりで全然会えず。
最悪の状態が続きました。
でもやっとまた会えるようになって、アンヘリータの最後のお誕生日はみんなでお祝いをしようとお家に押しかけたのです。
歌って踊って、タルタを食べて…ティタはとても嬉しそうでした。
本能?私の決心
その後はずーっと忙しくてほとんど会いに行けず、「会いに行かなきゃ、会いたい。」とずっと思っていました。
今年のセマナサンタがすぎ、フェリアも終わり、日本ツアーからも帰ってきた初夏。
いつもCortina (コルティーナ)カーテンとPersiana (ペルシアナ)を閉めて真っ暗にしてました🥲
夏の太陽がジリジリする中、やっとまた会いに行けました!
“Tita、 que pasa?” (ティタ、元気?)と家にはいると…
電気をつけず真っ暗の中、いつものように昼メロを見ながらタバコを吸っていました。
外ではファミリアがフィエスタをしているのに。
“Tita, no quieres estar allí con ellos? Te llevo a fuera? ” (ティタ、外にみんなと行かないの?車椅子押して行こうか?)
”No tengo gana“ (や、気が進まないの〜)
二人でおしゃべりしながら昼メロを見て、「また来るね」と言って帰りました。
その時、絶対来週も来ようと心に決めたのです。
次の週、いつも家族や隣人で賑わうプラザがシーンとしていました。
またいつものように “Tita、 que pasa?” (ティタ、元気?)と家にはいると…
またもや真っ暗の中、昼メロを見ながらのタバコ。
“Donde están todos?“(みんなどこ?)
みなさんバカシオンで、プラジャ(海)に行ったそう。
この時にこれからは絶対、毎週来ようと心に決めたのです。
フェースブックを見たりインスタをみたりしてる暇があったら、それよりもここに来よう。
1週間に2時間くらいは絶対取れる。
失礼ながら「親近感」
なぜかいつもいつもアンヘリータには親近感を感じていました。
マエストラなのに会った時から「親近感」なんて感じて失礼かとも思いますが、最初からです。
コロナ明けでやっと会えた時。
だって、私の父側の南の島の家族たちはみんなあの黒さ、あの顔をしてるんです☺️
一緒に南の島に行ったことのあるマリードくんも、「みんななんか “バルガス” の顔してる人多いね」と笑ってました。
特にアンヘリータは私の「ばあちゃん」(実は父の歳のすごく離れたお姉さん)に似ていたのです。
肌の色?笑顔?雰囲気?なんだったのでしょう?
いつからかアンヘリータを「ティタ」(おばちゃん)と呼ぶようになってました。
もちろんこれは、敬意と愛情を込めての呼び方です。
💔
先週金曜から、お葬式までの3日間は凄まじかったです。
悲しみと驚きと、悔しさと全てがごちゃ混ぜでなんとも言えない日々でした。
Velatorio (ヴェラトリオ)お通夜で。
その後、数日も他のことは考えられない・できない状態でしたが、昨晩おそくに日本に着きました。
病気の母を見舞うために1ヶ月の日本滞在を予定していたのです。
でも今週は日本に来る前にティタにもう一度会いに行くはずでした。
エッセンシアの生徒さんも一緒に会いに行く機会が何度かあり、ティタは嬉しそうでした。
お家に行くたびに、嬉しそうにすごい笑顔で迎えてくれたティタ。
横になってる時はパッとすごい勢いと速さでソファから上半身を持ち上げて「あ〜」と目をきらきらさせてくれたティタ。
もうその顔が見れないのですね。
「はい掴まって〜!」と首に手をかけてもらって、ソファから引っ張り起こすこともできないんですね。
サン・フアンの坂を車椅子を押しながら…
「ティタ、私より重いよー。セビージャまで滑って行っちゃうよー!もういっぱい食べないで〜」
と二人で笑うこともないのですね。
1.5ユーロのタバコをいつも買う、あのキオスコももう一緒に行けないのですね。
「ティタ、吸っちゃダメでしょ〜」という私に「あんまり吸わないのよ」って
いつも笑っていってましたね。
やりたいことも好きなこともあまりない生活なのに、好きなタバコもダメなんて私は言えないな〜と思って最後は「一日、1−2本だけね」というと、ワハハと笑ってましたね。
アンヘルのバルでもう一緒に朝ごはんを食べれないんですね。
アンヘルやフアン、いい人だね。
いつも女王様のように丁寧に優しく迎えてくれたね。
お通夜でアンヘルが泣いていたよ。
車椅子でのお散歩でお友達に会って挨拶するの好きだったね。
あのカッコいいサングラスしてみんなに素敵って言われてましたね。
いつも「息子がプレゼントしてくれたんだ〜」って嬉しそうに言ってましたね。
家族や隣人と話すのに車椅子を数メートルずつ押してみて、止めてみて…ももうできないんだね。
娘さんの窓に向かって彼女を呼ぶあの大きな声ももう聞けないのですね。
生徒さんみんなに教えたい、伝えたいものがいっぱいあって、クラスをするのを楽しみにしてましたね。
アンヘリータ・バルガスのマスタークラス「ラ・エッセンシア」✨ 全3回開催できました。
最後のクラスを受講できた方、よかったです。
アンヘリータのエッセンスを少しでも感じて、覚えていてくれればきっと彼女は嬉しいと思います。
彼女の素晴らしさや価値を理解し、大切にしてくださったみなさんに感謝しています。
もうできなくなってしまって本当に残念です。
ただいま日本にいる間に「アンヘリータ・バルガス追悼会」みたいなのができないかなと思っています。
アンヘリータを尊敬してた人、大好きだった人で集まって写真を見たり、思い出話ができる場です。
Tita、 te echo muchisimo de memos…
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